「このペンをわたしに一万円で売ってください」
面接官はそう言って、俺に安いボールペンを手渡してくる。
またかよ……。
俺は内心ため息をついた。面接でこのペンのやつを訊かれるのはもう何回目だろう。面白いと思ってるのか。よくオリジナリティとかを人様に求められるものだ(つづく)— まくるめ (@MAMAAAAU) February 12, 2024
「わかりました」
俺は立ち上がり、おもむろにペンを掲げる。
「いいですか。よく聞いてください。あなた方はいま、生命の危機にあります」
面接官は一瞬、意外そうな顔をしたが、すぐに無表情にもどった。
「なぜだと思いますか?」
俺は問う。
「さあ?」— まくるめ (@MAMAAAAU) February 12, 2024
「わかりませんか?」
面接官が分からないと言うまで、少し時間がかかった。面接官が内心、こちらにペースを握られたのを面白くないと思ったのが伝わってくる。
俺はもったいつけて、ゆっくりという。
「この部屋に見えない殺人からくり人形がいるからです」
「はい?」
「殺人人形です」— まくるめ (@MAMAAAAU) February 12, 2024
「いったい何を……」
面接官の顔色がくるくる変わる。どんな顔をしていいかわからないようだ。しかし、彼が俺の発言を不愉快に思っているのは確かだった。
「殺人からくり人形ですよ。それは一瞬であなたの首を切断する能力がある。一方的にね。それは非常に強いです」— まくるめ (@MAMAAAAU) February 12, 2024
「ふざけるな」
「しかし……ひとつ弱点がある」
俺は手にしたボールペンを強調した。
「このボールペンで、からくり人形のリセットボタンを押せば、あなたは助かる! 別にボールペンでなくてもいいが、この部屋に他にボタンを押すのに適したデバイスは、絶無!」
「そう言われても」— まくるめ (@MAMAAAAU) February 12, 2024
面接官は困ったような顔をした。あれである。大人が、ガチでどうしようもねえなと思ったときに、怒るのを通り越して逆に怒らなくなるあれだ。
面接官は小首をかしげ、言葉を続けた。
「それでボールペンを一万で買おうって気にはならないなあ」
「そうですか?」
「逆に君なら買うかね」— まくるめ (@MAMAAAAU) February 12, 2024
「買いますねえ!」
「そうか……」
面接官はため息をつき、手元の書類をしまい始めた。
「本日はお越しいただきあり……」
面接官の首に赤い線が走る。すぐにその線は弾け、赤いしぶきがほとばしる。
血を浴びて、殺人からくり人形の光学迷彩が部分的に無効化されている。破れた赤い輪郭だ。— まくるめ (@MAMAAAAU) February 12, 2024
「感謝しますよ、面接官、あなたの血のおかげで、今ははっきりとボタンが見えているッ!」
俺はボールペンでからくり人形の初期化ボタンを押す。人形は動きを止め、光学迷彩もキャンセルされる。
俺はため息をついた。
「しょせんここも、俺の”会社”じゃなかったか――」
「合格だ」— まくるめ (@MAMAAAAU) February 12, 2024
「?!」
合格、その声は、明らかに死んだ面接官から聞こえていた。見ると、彼のワイシャツがもぞもぞ蠢いている。
「合格だよ、君、いつから出勤できる?」
ワイシャツの第三ボタンが外れ、面接官の第二の顔が現れた。
「俺の首を一撃とは大したものだよ、人形遣いくん。いつから出勤できる?」— まくるめ (@MAMAAAAU) February 12, 2024
「お、おお……」
「おっと、忘れてた」
面接官の第二の首の横から、別の手が現れた。彼はカードマジックのように、一万円札をこちらに投げてきた。紙幣は俺の胸ポケットにするりとおさまる。
「そのボールペン、一万円で買おうじゃないか」— まくるめ (@MAMAAAAU) February 12, 2024
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Source: オタクニュース